ミムラブログ

KLの渋滞で、俺は「車間距離を開けたくなるアプリ」を作ることにした。BagusDriveの根っこにある話

この記事の目次
  1. KLの渋滞は、誰かのブレーキから始まる
  2. 「ルールを守れ」では人は変わらない
  3. 「社会のため」じゃなく「自分が得するから」
  4. 自分のおかげで、何人が楽になったか
  5. 車間距離は測らない。ブレーキを見る
  6. 「Terimakasih」を送り合える道路にしたい
  7. Turn patience into rewards

今、BagusDriveというアプリを作っている。マレーシアのドライバー向けの、安全運転するとリワードがもらえるアプリだ。

こう書くと「ああ、よくあるやつね」で終わりそうなので、今日は機能の話じゃなくて、なんでこれを作ってるのかという根っこの部分を書いておきたい。ここがブレたら、このアプリは作る意味がないと思ってる。

KLの渋滞は、誰かのブレーキから始まる

KLに住んでる人ならわかると思うけど、渋滞が本当にすごい。

で、渋滞のことを調べていくと面白いことがわかる。事故も工事もないのに起きる渋滞が、けっこうあるのよ。

名古屋大学などの研究チームが、円形のコースに車を並べて走らせる実験で、これを実際に再現したこともある。誰も悪いことをしてないのに、渋滞が勝手に生まれるわけだ。

逆に言えば、車間距離をちゃんと開けている車は、その波を吸収できる。前の車がブレーキを踏んでも、自分はアクセルを緩めるだけで済む。そうすると、後ろの車も止まらずに済む。

つまり、車間を開けて走っている1台は、自分の後ろにいる何台ものドライバーをストレスから解放していることになる。本人はまったく気づいてないけどね。

「ルールを守れ」では人は変わらない

じゃあ「車間を開けましょう」と呼びかければいいのかというと、それで変わるなら誰も苦労しない。

マレーシアの道路では、ウインカーなしの車線変更も、強引な割り込みも、すり抜けていくバイクも日常だ。

車間を開けたら、その隙間にすぐ誰かが入ってくる。開けるだけ損、みたいな空気すらある。

ここに罰則や教育で切り込んでも、たぶん続かない。怒られるからやるっていうのは誰も楽しくないし、見られていないところでは元に戻る。

だから俺は逆をやることにした。罰じゃなくて、ご褒美で。車間距離を開けたくなる文化を、自然に作れないか。それがBagusDriveの出発点だ。

「社会のため」じゃなく「自分が得するから」

最初に決めたことがある。「渋滞を減らすために協力してください」とは言わない。

うまくいっているアプリを色々見てきたけど、「社会のためにやれ」で人を動かしているものはほとんどない。動機はいつも「自分が得するから」だ。

だからBagusDriveでは、滑らかに運転するとポイントが貯まって、コーヒーや燃料代に替えられるようにしている。まずは自分が得をする。それでいい。

ただ、それだけだと、よくあるポイントアプリで終わってしまう。ポイントは使ったら消えるから。

自分のおかげで、何人が楽になったか

もう一本の柱として大事にしているのが、「自分が街を変えている」という実感だ。

BagusDriveの2本の柱中身
① 自分が得するポイントが貯まって、コーヒーや燃料代に替えられる
② 街を変えている実感「あなたのおかげでKLのX人がストレスから解放された」が見える

2本目の柱で参考にしたのは、中国のアリペイの中にあるAnt Forest(アントフォレスト)。エコな行動をするとアプリの中で木が育って、ある程度まで育つと本物の木が乾燥地帯に植えられる。何億人もが参加して、実際に森ができている。

あれのすごいところは、自分の小さな行動が、社会への貢献として目に見えることだと思う。ポイントは使えば消えるけど、「森を作った」っていう感覚は消えずに積み上がっていく。

BagusDriveでも同じことをやりたい。ホーム画面に「あなたの運転のおかげで、KLのX人のドライバーがストレスから解放された」と出したい。

もちろん、渋滞が何分減ったかを厳密に証明するのは無理だ。だから交通の流れの考え方を使った推計値として、計算の前提も含めて隠さずに出すつもりでいる。完璧な数字じゃなくても、自分の運転が誰かの役に立っているとわかれば、人は続けられると思うから。

車間距離は測らない。ブレーキを見る

少しだけ作り方の話もしておく。ここもWHYとつながっているから。

最初は、スマホで車間距離そのものを測ろうと考えた。カメラ、LiDAR、Bluetooth。色々検討したけど、どれも「スマホを車に固定してカメラを前に向けてください」みたいな面倒くささがあったり、一部の機種でしか使えなかったりした。続けてもらうことが一番大事なのに、これじゃハードルが高すぎる。

そこで発想を変えた。車間距離を開けている人は、急ブレーキが少なくて、加速も減速もゆるやかになる。だったら距離を測るんじゃなくて、その結果を見ればいい。

アプリでの伝え方
目的(なぜやるか)車間距離を開けて走る
行動(何をするか)ブレーキをできるだけ踏まない
結果(どうだったか)今日はX回ブレーキを抑えられた=車間を開けて走れた

やることはシンプルで、目的は車間距離。動機と行動と結果が、一本の線でつながるようにしたかった。

スピードバンプやラウンドアバウトみたいに、どうしてもブレーキを踏む場面は採点しない。理不尽な減点をされたら、誰だってやる気をなくすからね。

「Terimakasih」を送り合える道路にしたい

もう一つ、どうしても入れたかったのがTerimakasih(テリマカシ)ボタン。マレー語で「ありがとう」だ。

合流で入れてもらったとき、道を譲ってもらったとき。運転中の小さな親切に、アプリの中でお礼を送れる。送った人にも、もらった人にもいいことがある仕組みにしている。

日本と同じようにマレーシアでも「ありがとう」の意味を込めてハザードランプを2,3回チカチカさせる文化はあるけど、使う人は少ない。

ズルをする人への対策も考えた。でも、アカウント停止みたいな厳しい罰はあえて入れていない。夫婦で同じ渋滞にはまって送り合っただけで不正扱い、なんてことも起こりうる。何より、「親切を楽しくご褒美にする」アプリが恐怖で人を縛るのは、筋が違うと思ったから。

ランクの名前も、Pemandu Baru(新米ドライバー)から始まって、一番上はLegenda KL(KLの伝説)にした。マレーシアの道路で使うアプリだから、マレーシアの言葉で呼びたかった。

Turn patience into rewards

BagusDriveのタグラインは「Turn patience into rewards」。我慢を、ご褒美に。

車間を開けるのって、ちょっとした我慢なんだよね。前に詰めたくなるし、割り込まれたらムカつく。でもその我慢が、後ろの誰かを楽にしている。今まではそれが誰にも見えなかったし、誰にも報われなかった。

その見えない我慢を、ちゃんと見えるようにして、報われるようにしたい。

それが積み重なって、いつの間にかKLの道路が少しだけ優しくなっていたら最高だ。

うまくいくかは、まだわからない。センサーの精度は調整を続けているところだし、ユーザーが増えないとTerimakasihを送り合う相手もいない。でも、作る理由だけはハッキリしている。

開発の進み具合は、このブログとInstagramの@keisanjpmyで発信していくつもりだ。興味がある人は、bagusdrive.comからウェイトリストに登録しておいてもらえると嬉しい。