ミムラブログ

海外の保険会社が破綻して、35.7%だけ戻ってきた。Premier Assuranceで何が起きてたのか、裁判資料を読んで全部まとめた

この記事の目次
  1. そもそもPremier Assuranceってどんな会社だったのか
  2. 登場人物をざっと整理
  3. 2020年6月、3,221人の契約が「別の会社」に移されていた
  4. 時系列で見る:破綻から返金まで
  5. 2023年、裁判所「その移管、最初から無効ね」
  6. 被害の規模
  7. 返金ってどうやって決まってるのか
  8. ポイント①:基準日は2020年10月26日
  9. ポイント②:全員同じ割合で戻ってくる
  10. ポイント③:受け取るまでの手続き
  11. ポイント④:35.7%は「ゴール」じゃない
  12. 残りの64.3%は戻ってくるのか
  13. もし最終的にこれくらい戻ったら(認定額10万ドルの場合)
  14. 俺がこれから見ていくポイント
  15. これは「詐欺事件」なのか
  16. 海外の保険商品に手を出す前に考えてほしいこと
  17. 参考資料

最初に言っておくと、これは他人事の話じゃない。俺もPremier Assuranceの契約者の一人だ。

2020年に会社が清算に入ってから、気づけばもう6年近く経っている。これまでに中間配当で認定額の35.7%が戻ってきた。ありがたいはありがたい。でも残りの64.3%はまだ宙に浮いている。

配当の通知が来るたびに英語のPDFを流し読みして「で、結局どうなってんの?」って思っていた。だから今回、清算人の報告書、裁判所の判決、規制当局の公告をちゃんと読んでみた。

読んでみたら、思っていた以上にヤバい話だった。

そもそもPremier Assuranceってどんな会社だったのか

正式名称はPremier Assurance Group SPC Ltd.。ケイマン諸島の保険会社で、2015年10月15日に現地の保険ライセンス(Class B(iii))を取っている。

売っていたのはユニットリンク型の生命保険。ざっくり言うと保険と投資がセットになった商品で、払い込んだお金が運用されて、その成績が保険の口座価値に反映される仕組みだ。

販売先は中南米、カリブ海、ヨーロッパ、アジアなど。アメリカは対象外。マレーシアではラブアン支店を通じて売っていた。

登場人物をざっと整理

ここを押さえておかないと、この先の話がわけわからなくなるので先にまとめておく。

名前何者か
Premier Assurance Groupケイマン諸島の保険会社。今回の主役
PASP保険契約を管理していた「分離ポートフォリオ」。契約者のお金は基本ここにある
GASP同じ会社の中にある、別の分離ポートフォリオ
Premier Trust契約者が保険に加入する仕組みに関わっていた信託。保険会社そのものではない
CIMAケイマン諸島の金融監督当局。日本でいう金融庁みたいな存在
Providence Insuranceプエルトリコの保険会社
PAPRProvidenceの中に作られた区分。3,221人の契約の移し先
Teneo今の清算人が所属している会社

2020年6月、3,221人の契約が「別の会社」に移されていた

この事件の一番のポイントはここだと思う。

2020年6月15日ごろ、PASPに入っていた3,221人分の契約が、プエルトリコのProvidenceに設けられたPAPRに移されたことになっていた。中身を分解するとこうなる。

  1. 3,221人分の保険契約を、解約・放棄したことにする
  2. 約3,400万米ドルを、PASPからアメリカの「Premier LLC」名義の口座に移す
  3. Providence側で、PAPRの新しい保険契約を発行する

引っかかるのは2つ目だ。

元経営陣は「プエルトリコでPAPR名義の口座を開くのに時間がかかったから」と説明したらしい。

さらに時系列もおかしい。移管が行われたとされる6月から2か月以上たった2020年8月28日になって、Premier Trustの受託者が契約の解約と新契約の発行について決議をしている。しかもその決議には、契約者が明確に同意したかのような記載があったという。

ところが裁判で扱われた事実関係では、契約者に通知が届いたのは移管の後。実質的な同意はなかったと説明されている。

自分の契約が、知らないうちに別の国の別の会社に動かされていたかもしれない。これを読んだとき、さすがにゾッとした。

時系列で見る:破綻から返金まで

ここからは起きたことを順番に並べていく。長いけど、流れで見るとこの事件の異常さがよくわかる。

Premier Assurance 破綻から返金までの路線図
  1. フェーズ1 発端2015年〜2020年8月
  2. ケイマン諸島で保険ライセンスを取得

    ユニットリンク型保険の販売をスタート

  3. 3,221人の契約がPAPRへ移される 事件の始まり

    約3,400万ドルがPremier LLCの口座へ

  4. 移管の2か月後に、受託者が「後から」決議

  5. フェーズ2 当局の介入2020年9月〜10月
  6. CIMAが共同管理人を送り込む

    創業者兼取締役2人を「取締役として不適格」と判断

  7. 共同管理人が清算を勧告

    会社もPASPも債務超過、重大な法令違反ありと報告

  8. CIMAが裁判所に清算を申し立て 返金額の基準日

  9. 暫定清算人が任命される

  10. フェーズ3 清算スタート2021年
  11. 買い手も出資者も見つからず

    資産不足を埋められる提案はゼロ

  12. 裁判所が正式に清算を命令

    同じ日に保険ライセンスも取り消し

  13. 最初の債権者集会。清算委員会が選ばれる

  14. 清算人が「移管は無効だ」と裁判を起こす

  15. 債権認定の簡略化を裁判所が承認

    約260万ドルの費用削減の見込み

  16. 第1回中間配当の手続きがスタート

    移管された3,221人はこの時点では対象外

  17. フェーズ4 裁判と配当2022年〜2024年
  18. 清算後も振り込まれていた保険料の返金を承認

  19. 裁判所「3,221人分の移管は最初から無効」 最大の転機

  20. 第2回中間配当の通知。累計35.7%に

  21. フェーズ5 現在2026年〜
  22. 移管された3,221人向けの審査手続きを承認

  23. 最新の通知

    和解金を回収中。回収が終わるまで次の配当は出せない

  24. 次回の報告期限

2023年、裁判所「その移管、最初から無効ね」

この事件で法的に一番大きいのが、2023年5月17日の判決だ。

ケイマン諸島の保険法31条では、保険事業を他の保険会社に移すときはCIMAの承認が必要だと決まっている。でも元経営陣はその承認を申請していなかった。

言い分・判断
被告側移管したんじゃない。古い契約を解約して、別の会社で新しく契約を発行しただけ。だから31条の「移管」には当たらない
裁判所形式じゃなく、実際に何が起きたかを見る。中身が移管なら、解約と再契約に言い換えても承認義務からは逃げられない

結果、3,221人分の移管は「void ab initio」とされた。

ちなみにWalkersの解説によると、31条違反の法的効果をケイマン諸島の大法廷がはっきり判断したのは、これが初めてらしい。

ただし、移管が無効になったからといって、3,221人分のお金がそのままPASPに戻ってきたわけじゃない。お金がどこにあるのか、誰のものなのか、実際に回収できるのか。それは別に片付けないといけない話で、だから清算はまだ終わっていない。

被害の規模

清算が始まった時点で、PASPの契約者は11,160人いた。

契約者の区分人数
ケイマン法準拠の契約者10,485人
マレーシア・ラブアン支店の契約者675人
合計11,160人
これとは別に、移管された契約者3,221人

返金ってどうやって決まってるのか

ここからは、契約者として一番気になる返金の話。

ポイント①:基準日は2020年10月26日

債権額の基準日は、正式な清算命令が出た2021年4月19日じゃなく、CIMAが清算を申し立てた2020年10月26日。有効だった契約は、原則としてその日の口座価値が債権額のスタートになる。

ポイント②:全員同じ割合で戻ってくる

ケイマン諸島の清算では、一般の無担保債権者は同じ順位で扱われる。pari passu(パリ・パス)っていうやつだ。認定額が違っても、配当率は全員同じ。

認定された債権額35.7%の場合の受取額
1万ドル3,570ドル
5万ドル17,850ドル
10万ドル35,700ドル

ポイント③:受け取るまでの手続き

実際にお金を受け取るまでには、けっこうな手順があった。

  1. 銀行口座などの支払い情報を清算人に出す
  2. 清算人が契約番号、名前、口座情報を照合する
  3. The ID Registerで本人確認のプロフィールを作る
  4. AML/KYC、FATCA/CRS関連の情報を出す
  5. 清算人が審査する
  6. 支払い対象として登録される
  7. 支払い予定日の連絡が来て、入金される

名前や口座情報が少しでも合わないと支払いが止まる仕組みだった。面倒ではあるけど、1万人以上に海外送金するならまあこうなるよなとは思う。

ポイント④:35.7%は「ゴール」じゃない

今の配当状況(認定額=100%)

35.7%

受け取り済み 35.7%まだ戻っていない 64.3%

第1回+第2回の中間配当の合計。残りが戻ってくる保証はない。

残りの64.3%は戻ってくるのか

結論から言うと、わからない。これが正直なところだ。

2026年10月30日付の最新の通知では、清算人は和解契約(Adversary Settlement Agreement)に基づいてお金を回収している最中だと書かれている。

つまり、少なくともあと2年くらいは次の配当は期待しにくいということだ。

しかも、和解金の総額も、今どれだけ回収できているのかも、次にどれくらい配当されるのかも、通知には書かれていない。だから「最終的に50%は戻る」とか「60%いける」とかは、今の時点では誰にも言えない。

もし最終的にこれくらい戻ったら(認定額10万ドルの場合)

あくまで理解のための仮定で、清算人の予測じゃないことは強調しておく。

最終配当率受取総額今からの追加分
35.7%35,700ドル0ドル
40%40,000ドル4,300ドル
50%50,000ドル14,300ドル
60%60,000ドル24,300ドル
70%70,000ドル34,300ドル

回収したお金が全部契約者に回るわけでもない。清算にかかる費用や他の債務を差し引いたうえで、配当できる額が決まる。

俺がこれから見ていくポイント

見るところなぜ大事か
和解金の総額最終的にいくら回収できるのか。追加配当の最大の鍵
実際の回収状況24か月はあくまで予定。本当に回収できているのか
清算費用回収額からどれだけ差し引かれるのか

一方で、移管された3,221人(PAPR側)は、2026年8月に専用の簡略化された審査手続きが裁判所に承認された。10月の通知では、登録が済んだ人から第1回・第2回の中間配当の支払いが近いうちに始まる見込みとされている。この人たちはようやくスタートラインに立てた、って感じだ。

これは「詐欺事件」なのか

ここは慎重に書いておきたい。

移管が違法で無効だと裁判所が判断したことと、誰かが犯罪者だと認定されたことは、別の話だ。

だから俺はこの件を「詐欺事件」とは書かない。ただ、普通の保険会社の倒産と同列に語れる話じゃないのも間違いないと思っている。

海外の保険商品に手を出す前に考えてほしいこと

最後に、契約者として思ったことを書いておく。

オフショアの保険や金融商品は、利回りがよく見えたり、日本にはない仕組みがあったりして魅力的に見える。実際、俺もそう思って契約した。

でも、何かあったときに頼れるのは、その国の規制当局と裁判所と清算人だけだ。日本の保険契約者保護機構みたいなセーフティネットはない。

今回はたまたま、ケイマン諸島の当局が介入して、裁判所が移管を無効にして、清算人が地道に回収を続けてくれた。だから35.7%が戻ってきた。これがもっと監督の緩い場所だったら、たぶんゼロだったと思う。

それでも6年かかって3分の1ちょっと。残りはいつ戻るのか、そもそも戻るのかもわからない。

新しい通知が出たら、またここに追記していくつもりだ。

参考資料